家出少女と風花寮

「お待たせしました。こちら、新しい契約書です」

ちゃぶ台に置かれたそれから、腕を組み、そっぽを向くシュウ君。

「ボクは書かないよ! さっきは油断しただけだ!」

「……………」

「っ!」

微笑みを崩さない大家さんが、瞬きの速さで彼の眼前にボールペンの先端を突きつけた。

「どうぞ、お使いください」

じりじりと迫るボールペンの先端に、シュウ君は悲鳴を上げた。

「わかった! わかったから、離れてくれ!」

「おやおや、そんなに怯えなくてもいいでしょう」

いや、怖いから。

と、この場にいた全員が思ったに決まってる。

大家さんは気に留めず姿勢を正し、ボールペンをシュウ君に手渡した。

シュウ君はそれを黙って受け取り、新しい契約書の文面に文字を書き、線を引く。

それを大家さんが人差し指で突く。

「シュウさん、これはなんです?」

「見てわかりませんか、この、誤字の多い契約書を修正しているんですよ」

「誤字などありませんし、その行為は、修正の範囲を逸脱しているようですが」

「兄さんと別部屋になるなんて、誤字以外ありえない」

大家さんの目の前で内容を変えるとは、無謀というか、学習しないというか。

「先ほどまでの話し合いを忘れましたか?」

「話し合いなんて、した覚えはないよ」

確かに、話し合いというには、大家さんの話の進め方は少々強引だったように思う。

でもそれを、こんな状態の大家さんの目の前で言えるなんて。

勇者かな。

一瞬の睨み合いの後、シュウ君がボールペンの先端で大家さんの首を狙う。

大家さんはそれを丸い朱肉の底で受けた。

カッ、カッカッ、カッ。

ボールペンと朱肉の底を打ち鳴らす。

彼らの攻防を横に、中島君がアキ君に耳打ちしていた。


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