家出少女と風花寮
5号室

大家静流という男




期末テストも終わり、夏休みへのカウントダウンが始まる。

今日は大掃除の日。
普段は手をつけない校舎裏や、中庭も掃除場所となる。

私は校舎裏に派遣された。

右手にほうき3本、左手にビニール袋。
正面には、校舎裏に派遣されたその他女子たち。

「ウチら、朝から調子悪いんだよねぇ。だから、代わりに全部やっといてくんない?」

絶対嘘だ。

んな都合よく私以外の全員が体調不良になりますか。
ほんとに調子悪いなら、その膝上15センチのスカート伸ばせよ。
仁王立ちやめれ。
キラキラしたメイクを落として、土色の肌でも晒してみせなさい。

内心では好き勝手に言えるが、ノーと言えない日本人の私。
現実での返事はひとつ。

「わかりました」

「やりぃ!」

「手ぇ抜かないでよね」

「センセーにも言いつけんじゃないわよ」

そう言って、キャハキャハ騒ぎながら何処かへ行こうとする彼女達だったが。

「おやおや、お元気そうじゃありませんか」

背後からの第三者の声に動きを止めた。

振り返るとそこには、細身で長身の美形な男子生徒。
首の後ろで一つにまとめた長髪がなびく。

「大家センパイ……」

「なんでここに……!?」

「失礼。調子が悪いんでしたね。教師に保健室で休ませてもらえるよう、言いにいきましょう」

「違うんです、大家センパイ、体調悪いのはコイツです! 代わりにウチらでやろうとしてたところでー」

「ほら、ほうきと袋よこしなさいよ!」

女子達が私の手からほうきとビニール袋を取り上げる。

「ほら、あんたは体調悪いんだから、どっか行きなさい」

「で、でも………」

「戻ってくるんじゃないわよ!」

「ぁ……はぃ…………」

ノーと言えない日本人の私は頑張ったが、彼女達の命令には逆らえなかった。

彼女達はわざとらしくほうきを使い始める。
その背中からは拒絶を感じた。

追い出された私、どこに行こう。
皆が掃除してる中、私だけ休むのも居心地が悪い。
どこかに人手不足なところないかな?

「それでは、保健室に行きましょうか」

「あ、はい……」

大家センパイと呼ばれた彼、風花寮の大家さんに促され、その場を離れた。

いつも和服を見てるから、制服姿がとても新鮮。
こちらもよく似合ってます。
若そうだとは思ってたけど、大家さん学生だったんだ……。

「とりあえず連れ出したはいいものの、福井さん、体調はいかがですか?」

「あ、いや、全然平気です」

「ですよね、どうしましょうか」

足を止めて、考える素振りをする大家さん。
手元のバインダーにボールペンで書き込む。

「ところで、大家さんは、どうしてあそこに?」

「ああ……見回り、ですよ。これでも生徒会長やってるもので」

「そうなんですね、すごいです」

「生徒会長といってもお飾りですよ。行事の際にちょっと挨拶するくらいで、業務はほとんど副会長がやってます」

「へー、そうなんですね」

「………決めました。福井さんには、私の補佐をしていただきましょう」

「補佐、ですか?」

「はい。見回りしたところにチェックをつけていってください」

大家さんにバインダーとボールペンを渡された。

挟まれた紙は、学校の見取り図。
私の掃除場所には、1年福井体調不良、とあった。

もちろん私は体調不良などではない。

「私は、小姑の如く皆さんの掃除に文句をつけていきます」

ウインクする大家さん、素敵です。

校舎に入ると、すれ違う生徒達の注目を浴びる彼。

「大家先輩だ!」

「キャー! 大家先輩!」

「先輩ー、こっち向いてー!」

「会長ー!」

「キャー! いまあたしのこと見た!」

「手振ってくれた!」

「かっこいい!」

「うつくしすぎる!」

みんな、掃除の手を止めて、大家さんに見入る。

大家さんの優雅に揺れる黒髪を追う一般生徒の私、肩身が狭い。

でも、ついていくしかあるまい。

なるべく目立たないよう背中を丸めるが、道ゆく人皆、大家さんに夢中で私など眼中になさそうだ。

影の薄い平凡万歳!




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