HONEY TRAP(1)~上司は身勝手な婚約者~
目の前のエレベーターが軽快な音をさせながら停まった。




「乗れ…」



佐野部長はドアが開いた途端、グイッと私の左手を掴んで金属の箱の中に強引に押し込める。



半分、拉致られた状態の私。



彼は最上階のボタンを押してドアを閉めた。




「ねぇ、この手、離してくれる?」




「はいはい」



佐野部長は生返事して、私の腕から手を離してくれた。



「…お前、ほっぺにご飯粒は付いてるぞ」



「えっ?」


私は慌てて目の前の鏡を覗く。




「…嘘だ」



佐野部長は真に受けた私の態度を見て、大笑いする。



「貴方ね…」


私は右手に拳を握った。そして、部長にパンチを繰り出す。



「その手は二度も通じないぞ!羽瀬」



部長は私の拳を右手で受け止めてた。そして、そのまま私の拳を優しく包み込んだ。

握り込まれてしまった拳。


部長はニヤリと笑って、手の力を次第に強くこめていく。



「は、離して…」



「離してではなく、離して下さいだろ?羽瀬」


彼は私を懐柔して、自分の下僕にでもしたいのか?


私は彼の強い瞳の光に対抗して怒りを露わにして睨み返す。私達は、互いに同じS極の磁石のように反発し合う。
私達が一進一退の攻防を続けていると、金属の箱が最上階フロアに到着した。



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