HONEY TRAP(1)~上司は身勝手な婚約者~
「俺はお前との結婚に前向きだけど…」



「それは社長の椅子が欲しいからでしょ?」



「その通り…」



彼はキッパリと傲慢な表情で言い切る。その姿は実に清々しい。野心家な男は嫌いじゃない。向上心のある男は私のモロタイプだ。


「俺を味方に付けた方が得策だと思うけど…新入社員でキャリアの無いお前は常務に太刀打ちできない」



「そんなコトは判っています…」



「判ってるなら、お前も前向きに俺を婚約者として認めろ」



佐野部長は一途に私を見つめて迫ってくる。私は彼との距離を離そうと後ずさった。


でも、ここはエレベーターの中。


密室でしかも私達二人だけ。




「逃げたくても逃げれないなぁ。優奈」



私の名前を呼ぶ彼の声音は甘く心地いい。


私は壁と彼に囲い込まれ、ジタバタする。



「…その戸惑った顔、そそる」


佐野部長は私の耳許で囁きながら、そのまま耳朶を甘噛みした。




「さ、佐野ぶ・・・んんっ」



耳朶は私の性感帯で身体が恥ずかしく火照り出してくる。



金属の箱は、軽快な音と共にインテリア室のフロアで停まった。



「チッ」



佐野部長は軽く舌打ちをして私の身体から離れる。




「時間切れか…まぁ―いい…」


佐野部長は私を置いて先にさっさと出てしまった。私は暫く…全身を火照らせ、茫然と佇んでしまった。

< 37 / 402 >

この作品をシェア

pagetop