Dear・・・
しかし、治はちゃんと聞いていた。


香子に見えないように携帯を触り、暗証番号を入力していく。


治自身の誕生日、香子の誕生日…やはり、誕生日ではないのであろうか…和也の誕生日……綾の誕生日……


瞬間、設定は解除された。


治はすぐさま慶介にメールを送った。


そして、自分はトイレだといい、席を立つ。


久々に聞ける慶介の声に、治は胸躍っていた。







その少し前、トイレに行っていた香子は帰り際に治を見かけた。


携帯を大事そうに握り締め、トイレに行くでもなく、玄関の方へと向かっていった。


自然と足は治の後を追う。


治は玄関から外へと出た。


香子はなかなか治に話しかける事が出来ず、背後からそっと見つめていた。


と、治の携帯が着信を告げた。


治は慌てて携帯に出た。しかし、相手の応答がないのか何度も呼びかける。


これ以上聞いてはいけない。


香子の心の中の何かがそう叫んだ。


香子は、仕事の電話だと信じ、治に背を向けた。


その時、一番聞きたくなかった言葉を耳にした。
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