Dear・・・

優人の場合

昭和六十一年、十一月。


僕は生まれたが、本当の意味で生まれていなかった。


僕には四歳年上のお兄ちゃんがいる。


お兄ちゃんは何でも出来た。


僕も負けないように何でも頑張った。


遊ぶのも我慢して勉強した。


だから僕はお兄ちゃんと遊んだ記憶なんて一切ない。


それほどまでに頑張った。


お父さんやお母さんの期待に応えて、名門の中学校に入ったお兄ちゃんは僕の憧れだった。


お兄ちゃんと話す事は少なかったけど、たまに聞こえるギターの音色がお兄ちゃんに応援されている気分だった。


そして気づいた時にはお兄ちゃんを抜いていた。


それ以来、お兄ちゃんとはほとんど話していない。


お兄ちゃんと話すとお母さんに怒られたから。


それからお母さんは以前にも増して、僕に勉強をさせた。


順位が下がると叩かれた。


なぜ叩かれるのか分からなかったが、僕が悪いのだろう。


部屋にこもりがちになったお兄ちゃんの部屋からは頻繁にギターの音が聞こえてきた。


それが唯一の救いだった。


だが、その音色もいつからか聞こえなくなった。


お兄ちゃんが家を出て行ったのだ。


追い出されたのか、自ら出て行ったのか僕は知る必要がない、と教えてもらえなかった。


それからの僕の人生は地獄だった。


順位が下がるのは当たり前、一位を取っても満点じゃないと殴られた。


お母さんに殴られるのはまだ良かった。


お父さんに殴られるとアザだらけになって見られたもんじゃない。


泣くとさらに殴られるから、僕は涙を捨てた。
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