不埒な恋慕ごと。
プロローグ
 わたしは双子の妹が大好きなグラタンをオーブンに入れてから、使った道具の洗い物を始めた。


妹と喧嘩をした日は、グラタンを作ってあげることにしていた。


彼女の曲がった機嫌はいつも、これですぐに元通りになるから。


外の雨の音と、オーブンの機械音、水道から流れる水の音、……そんな室内に、新たに無機質な電子音が忙しなく鳴り響いた。


慌てたわたしは濡れた食器を手に持ったまま、反対の手で子機を手に取ってしまった。



「もしもし……?」


のんびりとした口調で話すと、相手は慌ただしく口にした。


「小日向(こひなた)さんのお宅ですか?ご家族の菜々(なな)さんが、交差点で交通事故に遭われて、現在○○病院に搬送されて、……」


ガシャン、と落とした食器は呆気なく割れて、わたしの足元に、見る影もなく散らばった。


先程の言葉を頭の中で反芻するも、脳は理解することを拒絶する。


「小日向さん?小日向さん?」


反応を示さないわたしを、電話の相手は何度も呼びかけた。


嘘であることを、何度も願った。


……最後に見た菜々の顔は、泣き顔だったというのに。



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