獣耳彼氏



彼は質問に対する答えを待っているのか、ジッとその瞳で私を見つめる。


このまま、私が答えるまでいつまでも待っていそうだ。


それもそれで、面白いと思ったけどその瞳で見つめられることに耐えられなかった。



「いや、あの…怯えてたっていうか、逃げてきたから警戒してたっていうか…」


「逃げる…?背負い投げ女なのにか」



彼の目は本当に疑問でしかないとでもいうように見開かれている。


大の男を背負い投げ出来る女が何故逃げる必要がある。


そんなことでも思っているのだろう。


心外だけど。私だって、



「色々、あるんですよ」



部長に背負い投げをかましたところで、どうにもならないし。


逆に喜ぶかもしれない。


構ってくれたとでも思って。


いつまでも、付きまとってくる部長のことだ。


少し反応しただけで喜ぶ姿が目に浮かぶ。



「色々、ね…」


「それよりもですよ!その呼び方やめてくれませんか!?」



背負い投げ女って。


前にも言ったけど、私にはちゃんと真琴って名前があるの。


そんな一見聞いたら怪力女みたいな呼び名は嫌だ。


お父さんとお母さんが名づけてくれたこの名前。


それを無視するのはやめて欲しい。



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