獣耳彼氏



ガチャリと音を立てて玄関が閉まる。



「あら、真琴おかえりなさい。どうしたの、そんな所にしゃがみ込んで」


「なんでもない…っ!」



靴も脱がずに玄関にしゃがみ込んでいた私にお母さんが声をかける。


バッと顔を上げて急いで靴を脱ぐと階段を駆け上がった。



「真琴、ご飯はー?」


「いらない!」



ご飯なんて喉を通らないくらい胸はいっぱいになってる。



「真琴にも春が来たようね」



バフンッと勢いよくベッドへと飛び込む。


夢じゃない、夢じゃない、夢じゃない!


確認のために頬をつねってみたけど、ちゃんと痛かった。


枕に顔を埋めて目を瞑れば浮かんでくるのは秋月くんの姿。


好きだと言ってくれた後のキスまでもがまざまざと思い出される。


時間が経っているはずなのに、その感触が唇に残っているようで。



「キス、したんだ…」



秋月くんと。


段々と思い出したそれで顔が今以上に赤くなってくるのが分かる。



また、明日。なんて。一体、どんな顔して会ったらいいの…?


秋月くんを見たらキスのことを思い出してしまいそうで。いや、絶対に思い出すこれは。


今までどんな顔で秋月くんに会っていたのか全然、分からないよ…っ!



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