獣耳彼氏



秋月くんに握られていたことにより、溜まった熱が外気に触れヒヤリとした。


ゆっくりと彼が振り返る。


ドキドキと高鳴る胸。


それは、秋月くんに抱きしめられた時とは比べものにならないほど強く。



「あそこで何をしていた」



真っ直ぐな瞳が私に向けられる。


一度、捉えたら簡単には離してくれない真っ直ぐな瞳で。


自分から逸らすことさえ許されない。


そんなような瞳。


彼がジッと私を見ている。



「質問を変える。何故、あそこに居た」



早く答えろとでも言うかのように、声色にイラつきが混ざる。


しかし、目だけは離さない。



「えっと、あの…」



何故、あそこに居た。


何をしていた。


と、聞かれても私にも分からない。


体が勝手に動いていたんだもの。


理由も何もそんなの私が知りたい。


体が引き寄せられるようにあそこに向かっていたのだから。



「私、分からない、です。体が勝手に動いて…気付いたら路地に…」



途切れ途切れに言葉を繋ぐ。


未だにドキドキと胸が鳴っている。


秋月くんがいるという緊張からか、それとも秋月くんは一体何者なのかという恐怖からか。


どちらにしても、この動悸の激しさには秋月くんが関わっていること。



私の受け答えに秋月くんは何も言わず、ずっと目を見てくる。


まるで、私の言った言葉に嘘偽りがないかを見定めているかのごとく。


しばらく、沈黙が訪れる。


それを打ち破ったのは苦しくも私。


この空気に耐えかねて、言葉を発してしまっていた。



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