【完】ズルい瞳[短編]
ズルい。
私には“蒼ちゃん”と呼ぶなとか
お互いの立場をわきまえろ、みたいなことを言うくせして
自分はいとも簡単に、その壁を乗り越えてくる。
私のこと“生徒”としか見れないって言ったのは
蒼ちゃんじゃん。
「絵、少しは上手くなったのか?」
創作の準備に取り掛かり始めていた私の手から
いつの間にか背後にいた蒼ちゃんが取り上げ
そして、そのデッサンをまじまじと見つめていた。
「絵の知識なんて無いくせに……」
聞こえないと思って呟いた言葉は
しっかりと蒼ちゃんの耳には届いていたようで
「ばーか。知識は無くても作者の作品に対する思い入れや情熱くらいは、はかり知れる」
と、反対に説き伏されてしまった。
「じ、じゃあ……どうですか?」
「あぁ、スゲェな」
「へ、へぇ。ありがとう……ございます」
だけど。
そんなことより何より
背後から顔を寄せてくる蒼ちゃんの吐息が
さっきから私の耳元をかすめてきて
「…………」
心臓がもうどうにかなりそう。