【完】私と先生~私の初恋~
先生の顔を見ないようにしながら、私は先生に背を向ける。


ここから離れるのを拒否する気持ちを懸命に振り払いながら、私は歩き出そうとした。


その時、急にぐっと腕を引っ張られる。


驚いて振り返ると、先生は下を向いたまま、私の腕をしっかりと掴んでいた。


また暫らくの沈黙。


暗い中、下を向いている先生の表情は見えない。


「あの…」


言いかけた私を遮るように、先生は静かな声で呟いた。


「……理由はそれだけ?」


「え?」


「…僕から離れる理由はそれだけ?」


何を言われているのかが解らず、混乱して体が固まる。


「…僕の事が嫌だからとかじゃなくて、迷惑をかけたくないからとか……理由はそれだけ?」


下を向いたままの、先生の冷たい声が怖い。


私は小さく「はい」とだけ返事をした。


「…………………あれから…色々考えたんですよ。」


先生が溜め息まじりにそう言った。


あれから?何の事?さらに混乱する。


「何を…ですか?」


「貴女と僕の事。」


何を話しているのかがようやく解って、私の胸はドキッとした。


「…貴女に好きだと言われて、正直あの時は凄く困りました。


でも、何となく気がついてはいたんです…昔から。」


私は黙って頷いた。


「僕は教師で、貴女は教え子だ。


どうにかなったらいけない。


そう思いながらも、貴女に頼られると心配でついつい手を出してしまう。」


「……。」
< 64 / 88 >

この作品をシェア

pagetop