「光、ジュースはなに飲む?」


お財布を手にスタンバイして光に問う。


「なにがあるんかな?」


レジの上のドリンクメニューを見る光の横であたしは光を見ながら答えた。


「んっとね、オレンジジュース、リンゴジュース、レモンティー、ピーチティー、ミルク、ホットミルク…」


「分かった分かった!」


まだあたしが答えている途中だったのに、光が慌ててあたしの言葉を止めた。
せっかく親切に教えてあげようと思ったのに。



「なによ。ふん」


「ごめんごめん。覚えてんねんな」


「そうよ。あたしがどれだけこのお店を好きか思い知らせてあげようか?」


「結構です」


「んで、決めたの?」


「ここも無難にコーヒーかな」


「あら、コーヒー飲めるんだ」


「失礼な」


「ブラックで飲めるの?」


「当然やがな」


「あら、見直しちゃった」


他愛ない話をしていると、ついにこの時が来た。


「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりですか?」


レジのお姉さんが営業スマイルを向けてくる。

隣では光も財布を出してスタンバイしていた。


「えっと、生クリームワッフルを2つと、コーヒーとレモンティー」


「かしこまりました。ふふ」


あたしが注文するとお姉さんが笑った。
なんでだろうと思って顔を上げて、お姉さんの顔をよく見ると…。



「すみません、いつも来てくださった方ですよね」

「あ!はい!全然気付かなくてごめんなさい!髪の毛の色変えたんですね」



レジのお姉さんは、数ヶ月前通っていたときに1番最初にあたしを覚えてくれた三上さんという店員さんだった。


当時の髪の毛は暗い茶色で。
今の髪の毛はミルクティーのような、かわいい色だった。

メイクも少し変えたみたいで気付かなかった。



それより。


「覚えててくれてありがとうございます!!」


「急に来なくなっちゃったから、どうしたのかと思ってたけど、元気そうでよかったです」


三上さんは営業スマイルをやめて自然な笑顔を向けてくれていた。


「ダイエットしてました笑」


「えぇ?細いのに!」


「いやいや…」


「せっかくダイエットしたみたいだけど…これ、サービスね」


小声でワッフルをダブルにしてくれた三上さん。
可愛くて優しくて大好きな人。


「ありがとうございます!!」


あたしも小声で、だけど感謝の気持ちを力強く伝えた。



「お会計はご一緒でよろしいですか?」


すぐに店員さんモードに切り替える三上さんはベテランさんだ。


「はい。あ、これもお願いします」



財布からポイントカードを取り出して、スタンプを押してもらう。



「はい、お会計が1200円になります」


するとすかさず、光が1500円出してくれた。


「あっ光、いいよ、あたし出すから」


「あかんあかん、レディーファーストやで」


「ちょっと意味が違う気がする…。いいの?」


「おう、女の人に出してもらうんは小学生までや!」



「ありがとう」



あたしが出す気満々でいたのに、光ってば律儀だなぁ。
ここはおとなしくごちそうになって、今度はあたしがなにかをごちそうしようと決めた。
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