「こんなこと、聞きたないけど。
あの女に俺の個人情報渡したん、葵やないよな」



カバンだけ玄関に置いて。

下に降りて単刀直入に。

昼休みのときと同じ、悲しそうで泣きそうな。
困った顔をしていた。


あの女。
…綾美。



「…違うよ」



「誰から聞いたか知らんか」




困った顔から静かに。
冷徹な目つきに変わった。



「ごめん。知らない」



「分かった。それだけ」



「…あの、光」



「なんや」



帰ろうとした光を呼び止めてどもる。


「あの…」


「…」


なかなか言い出せない私を待っていてくれる光。



「始業式の時もそうだったけど…今日も…。
なんで…?」




どうして光は2度もあたしを助けてくれたの?
最初からその場にはいなくて。
突然現れて。


直接的には…関係ないのに…。



「あんだけでかい騒動やで。伝わるやんか」


まぁ…ね。


「それ以外…ないやん」



「そうだけど…。でもっ!」



「なんや。喧嘩の邪魔されたから怒っとんのか」


「怒ってないよ…。そういうことじゃなくて…」


「年下に助けられるのは嫌か」



「違うってば!そうじゃないの!」



「じゃあなんや。なにが不満なん」



「不満とかじゃなくて!光は人気者だから、あたしみたいな地味なやつを助けたら評判が下がっちゃうし。

光には…関係ないし。
巻き込みたくないの!」



「そうけ。ほんじゃ学校では喋らんようにするわ」



冷たい。

心が。

痛い。



そんなこと言いたかったんじゃない。
光には、人気者でいてもらいたいの…。
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