彼はお笑い芸人さん
芸人さんの生態


 ゴールデンウィーク。帰省していた実家で、とても気になる情報を入手してしまった。

 土曜日の昼下がり、地元局のテレビ放送は「バラエティ番組の再放送枠」となる。
 キッチンのカウンターで、夕食作りの手伝いをしながら、弟がリビングで観ている再放送番組を何気なく観ていた。

 いや、何気なくってのは嘘だな。
 とーぐんが出ている番組だと分かって、気もそぞろだった。

 ちょうどオンエアを観ていない回の収録だった。
 昔はとーぐんが出演しているものは全て隈なく録画して観ていたけれど、最近はリアルタイムで観れるものしか観ていない。

「会えない間、テレビで観るんじゃなくて、今日の俺を何度も思い出して。俺はそうしてる、菜々香に会えない間」

 人気が出て急に忙しくなってきた頃、透琉くんが切実にそう言ったからだ。

 透琉くん曰く、「菜々ちゃんは俺を見てて、俺は見れないって、なんか不公平じゃん。会ったときに、どれだけ俺が菜々ちゃんを欲してるか、ちゃんと分かってる?」

 その理屈は正直腑に落ちないけれど、切なさを孕んだ熱っぽい瞳でじっと見つめられて、テレビでは決して見せない顔でそんなこと言われたら、単純に照れてしまう。

 会えない間、どれだけ私が透琉くんを欲しているのか、透琉くんはちゃんと分かってる?

 分かってないんだろうなあ。
 仕事中の、「とーぐん」の透琉くんの頭の中は、お笑いのことで一杯だから。

 仕事中の透琉くんを観て、疎外感を感じてしまったり、共演者さんやぐんちゃんにまで妬いてしまうなんて、私は本当にダメダメな彼女だ。

 透琉くんもそれを察していての、「オンエア観ないで」なのかもしれない。
 さすが透琉くんは、角を立たせずに、相手の顔を立ててお願いごとをするのが上手だ。

 そう好意的に欲目に、透琉くんの言葉を受け止めていた私は、実家で再放送バラエティ番組を観て愕然とした。


< 17 / 161 >

この作品をシェア

pagetop