彼はお笑い芸人さん
「……撮られてるの、知ってたから。ああ、これドッキリかなって。群司、わざとらしいし。不自然な点、多々あったし。んで隠しカメラ探したら、簡単に見つかったし。けどもうロケ班が動いてんなら、企画潰すわけにはいかないじゃない?」
静かな口調で、透琉くんは困ったように笑った。
「ヤラセじゃないんだけど」
雪美さんの言葉がよぎる。
“ほんまのドッキリやったけど、途中で気付いたんちゃう。とーる、察しがええから。撮られとん分かって、騙されたんやと思うで。カメラ回っとったら、中断させられん思うし、笑われてナンボや思うやろ。プロの芸人やもん”
「じゃあ、ドッキリって分かってて、企画を盛り上げるために引っかかったってこと?」
「そーいうこと。けど、そーいうの言っちゃうのはNGじゃん? 俺の胸に秘めとかないと、色んなものブチ壊すっていうか……」
選び選び、透琉くんは慎重に言葉を紡いだ。
「色んなもの」と曖昧に括られたところに、大人の事情がうかがえる。
「けど菜々ちゃんにだけは、ちゃんと言っとくべきだったよなって反省してる。どうしようか悩んだんだけどさ。オンエア観てもらわないのが一番かなって思ったんだよね。前もって話してたら、観て嫌な気分になるでしょ? 笑わせるのが、俺の仕事なのに」
どこか自嘲的な口調に、「笑イトを観ないで」と電話してきたときも確かそうだったと思い出す。
“面白くないから。笑って愛しい人、なのにね。笑えないと思うから”
「結局、余計に嫌な思いさせちゃってごめんね。これからは、ちゃんと言う。菜々ちゃんの許可もらってから、受ける仕事判断するようにする。ドラマでラブシーン演じるのは大丈夫って言ってたから、あれも大丈夫かなって思ったんだけど、違うよね。ごめん」