四月の魚 〜溺れる恋心〜【短編】

「はい、落ち着いた?」

「ありがとう…」


あたしは朝倉くんの差し出した缶コーヒーを、彼の手に触れないように気をつけながら受け取った。


冷たい缶を頬にあてる。

蕁麻疹の痒みは冷やすとマシになるので、朝倉くんにお願いして近くのコンビニで買ってきてもらったのだ。


「でも、驚いたな」

朝倉くんはそう言いながら、あたしの座ってるベンチに腰かけた。


ち、近いっ。

大人二人サイズのベンチだから仕方ないけど、ちょっと動けば肩が当たりそうだ。

触れると蕁麻疹が出るってわかったくせに、どうしてこんな距離で座るかな。


あたしはお尻を少しずらして、彼が遠ざかった。


「まさか蕁麻疹出るなんて…。でも、蕁麻疹出ても俺のこと好きなんて、かなり嬉しいよ」

「いや、好きじゃないから!」


あたしは思わず叫ぶように否定していた。

朝倉くんが不思議そうな顔であたしを見る。
< 4 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop