秘めた恋

envy

ウェアに着替え、テニスコートに入ると真っ先にベンチに向かって歩いた。
スポーツバッグをベンチに置くと後ろから「美雪先輩!」と声をかけられた。

私は、その声を無視してベンチから離れようとすると
また東郷くんに「美雪先輩!」と声をかけられた。

私はその場で立ち止まったが彼の方を振り向かず
そのまま歩き出した。

理沙に近づくと「あのさー理沙。」と言って理沙の腕に抱きつき
近づいてくる彼から離れるようにそそくさとその場を後にした。

周りにいる人も私たちの異音な雰囲気に少し戸惑いを見せたが
そんなことはお構いも無く「和馬く~ん!」と彼を呼ぶ甘ったるい水沢さんの声で
静まり返ったこの空気が徐々に緩和していった。

「なんなのよ、美雪のあの態度!和馬くんをあんなわざとらしくシカトするなんて。
なんかあったの!?」

「何もない。」

「嘘つけ。」

理沙は呆れてため息をつくと「美雪、リストバンドは?」と聞いてきた。

私は手首にリストバンドが付いてないのに気づき、「あ、バッグの中だ。」と
思い出した。

「早く取ってきな。」

そう言われ、「もう!」と言うとさっきバッグを置いたベンチまで
走って戻った。

スポーツバッグの中を漁り、リストバンドを見つけるとそれを手首に嵌めた。

するとベンチの下で何かがキラッと光ったのが目に入り私は屈んで
ベンチの下を覗き込んだ。

すると木製の万年筆が落ちているのを見つけた。
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