秘めた恋

傲慢な女

「あ!ごめんなさい」

若い社員とぶつかり、持っていたカップのコーヒーが
彼のスーツにも飛び散ってしまった。

「いえいえ、大丈夫です。それよりも橋本さんは大丈夫ですか?」

「あ、はい。それよりもスーツが・・・」

「いえ、大丈夫です。」

彼は懐からタックを取り出すと濡れた箇所を軽く拭いて
「橋本(美雪)さんが火傷しなかったなら良かったです。」と安堵して
去っていった。

社会人になって更に女に磨きをかけた私は
何人かの男性に好意を抱かれることが多くなった。

そのせいか周りの女性陣に私は良く思われてなかった。

「あれ、ワザとぶつかったんじゃないの?嫌な女ね。」
「これだから高嶺の花は何しても許されるから良いわよね。」

高嶺の花。
凛としていて上品で美しい。
うす茶色でロングのゆるふわパーマ、赤い唇が
小悪魔のようないたずらさを連想させ、
整った目鼻立ちがクール美女を象っていた。

ある男性が私に近づいて声をかけてきた。

彼、木戸修二さんはオフィス内でも女性陣の人気が高く、
上の人からも一目を置かれるいわばエースのような人だ。

その彼が特別な感情を自分に抱いているということは
周りからみても一目瞭然だったため女性陣からの陰口は一向に止むことはない。

「橋本さん、今夜空いているかな?」

三つ年上の上司。大人の落ち着いた雰囲気があり仕事でも頼りがいのある人。
私が昔憧れていた理想の男性。

「ごめんなさい。今日は行くところがあるんです。」

残念そうに言うと

「そうか。実はおしゃれなバーを見つけてね。もし良かったらと思って。」

と頭をかきながら照れ隠しのように言ってきた。

「そうなんですね。でしたら来週の金曜日でしたら大丈夫ですが・・・。」

「ならその日にしよう!俺もその日は空いているので」と

彼は嬉しそうに笑うと、では、と言って立ち去った。

私が彼に好意を持っていなかったとしてもこうやって
自分に好意を持ってくれてる人がいるということは少し嬉しいと感じた。

< 163 / 175 >

この作品をシェア

pagetop