西山くんが不機嫌な理由





結局、全力疾走で西山くんに追い付いたのは電車の中。



通勤・通学ラッシュで込み合う人混みの間をすり抜けて、吊り革に手を掛ける西山くんの隣に立つ。


私がそこに立ったのを横目で一瞥した後、言葉を発することなく掴んでいた2つの内のふとつの吊り革から手を離す。



いつも、私の分までとっておいてくれる(と、私は勝手にそう解釈している)。


嬉しさとときめきとで、締りのない顔になってしまうのは仕方がない。



ちなみに言っておくとこれは決してにやけているのではなく、頬の筋肉が無意識に機能停止してしまっているだけなのだ。



だって、滅多にない西山くんの不器用すぎる行動。


言葉なんかなくたって、ちゃんと思いやってくれてる。



「ありがとう、西山くん」



だけど私はきちんと言葉で伝えたい。


西山くんも、返事はしてくれないけど分かってくれる。筈だ。



「(なんか、恋人って感じ。ふふふ)」



幸せに浸っている私を見下ろして、西山くんは呆れたように溜め息をついた。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「じゃあね西山くん。またお昼会おうね!」



西山くんは無表情を保ったまま小さく頷くと、そのまま教室の中に入っていった。



残念なことに西山くんと私は違うクラス。


とはいっても隣りのクラスだし、会おうと思ってもすぐに会えるんだけどね。むふふ。



しかしながら、自分から会いに行けるのはお昼休みの時間に限られている。


それも、ほとんどの生徒が食堂に行ってからだといけない。



あんなちょっと、いやかなりひねくれてる西山くんだけれど、容姿は申し分のないくらい格好いいのだ。


その上、最近では素直じゃない男の子の方が流行っているらしい。



彼女の立場から思うに、西山くんは素直じゃない訳ではなく無口だたけだと捉えているが、世の女子はそうは思っていないようで。



故に女子からの人気は絶大。


そして彼女である私は大ピンチ。




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