西山くんが不機嫌な理由





「あ、あ、あ、あの…」

「キスしてた」



到底使い物にならない私の動揺に塗れた声を庇うようにして、山城くんがきっぱりと言う。



瞬間、出所不明の汗がどっと湧き上がる。




どうしようどうしようどうしよう。嘘は吐きたくない。



だけど折角山城くんは私のためを思って、言いたくもないことを仕方なく言っているのだ。




結局頭を悩ませるばかりに留まって何も言い出せない。




と。



「…………凪」

「え、あっ、……は、い」



愛おしい彼氏の声を無視することは私には到底有り得ない。



どもりつつも、顔を上げてちぐはぐな返事をする。




視界に入った西山くんは、こちらの心の奥を読み取ろうとしているような瞳で。ドクン、胸騒ぎが襲う。



「…………寂しい思い、してるの」

「へ、あの、えっと」

「…………キス、してほしいの」

「えっ、あ、の……ほ、ほし、い」



精一杯の言葉を紡ぎ終える間際に見た西山くんの顔を、私は決して一生忘れることはないだろう。




ロボットのような機械的な声に、身体を石のように固くする私を見て。


西山くんはそうっと、ごく自然に口角を上げてみせた。



本当にたった一瞬のこと、西山くんに起こった些細な変化。



「に、しやまく、……わ、わら、た……!」

「…………目、閉じて」



あくまで私の言葉を耳に入れているのか否か、とにかくきつく瞼を閉じる。




そして、訪れた真っ暗闇の世界。




唇に触れたのは、マシュマロのように柔らかい温もり。




< 31 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop