西山くんが不機嫌な理由





西山くんの言う嬉しいの意味はよく分からないけれど、本当の本当に柔らかい顔をしているから。



こちらも無意識のうちに釣られて、頬がゆるり、緩む。




下がり切った頬を上げると筋肉に可笑しな感覚がするけれど。



不思議だ。先程まであんなにうじうじうじうじ悩んでいたこ
とのほうが嘘だったように、どん底まで落ちた気持ちがみるみるうちに明るくなってくる。




西山くんは、やはり私の気持ちをいとも好き勝手に左右する。



「へ、へへ。西山くんすき」



頬は緩むと共に口元も緩んだのか、うっかり滑って言ってしまった。



普段態度で示していることを口にしただけなので羞恥心はそれ程沸いてこない。




吃驚したのは、見上げた西山くんの目の縁がほんのり朱く染まっていたこと。



「(照れてる、よね?可愛い、どうしよう、可愛い!!)」

「…………うるさい」

「あれ?」



瞬く間に西山くんが元の無表情に戻ってしまった。




どうやら思っていたことが素直に口から零れていたらしい。



この悪い癖はなるべく早いうちに直さなければ。




地味に決意をしつつ、暫し温かい雰囲気の漂うふたりきりの空間に未を委ねる。



「…………ごめん」

「え?どうして?」



首を傾げていると、伸びてきた手が頭に触れる。



抵抗をすることなく西山くんに視線を定めていれば、その手は頭をゆっくりと撫でる。



「…………やいた」

「ん?焼いた?何を?」

「…………ちがう」



言いにくそうに言葉に間を空けたあと、意を決めたのか口を開く。



「…………嫉妬」

「嫉妬…」



いつしかの、山城くんの言葉が頭の中によみがえる。




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