【完】MOON STONE ~美しき姫の秘密~
Short Story

midnight love 紅愛×翔聖


midnight love 紅愛×翔聖


「ふぁぁ…」


とある日、異常な喉の乾きで目が覚めた


時計を見ると短い針は3辺りを示していてまだ夜は長い。


かなり眠いけど…絶対もう一回起きそうだしなぁ…


「しょうがないから行くかぁ」


もう一度大きな欠伸をしてベッドからゆっくり体を置き上がらせれば


「寒っ!」


これ明日とか雪降るんじゃない…!?


と、思うくらい冷え込んでいて思わず傍にあったブランケットを羽織った


ここから一番近いキッチンは幹部室だ。


広間用程大きくは無いけど、充分な大きさがある


真っ暗な部屋に壁に手を這わせて歩いていた


そして、幹部室に差し掛かったとき


「あれ…電気ついてる?」


見えた幹部室の扉は少し空いていて


隙間から灯りが溢れている


消し忘れ…かな…?


恐る恐る扉に近づくと


…あれ


見えたのは癖っ毛らしい軽く跳ねた艶やかな黒髪


これは…


「翔聖…?」


ふと呟いたつもりが聞こえてたらしく肩がピクッと僅かに揺れた


そして、振り返った漆黒の綺麗な瞳はやはり翔聖だった



何してるんだろう?そう思ったけど口を開いた瞬間喉が乾いている事を思い出してとりあえずキッチンに向かった





「……ふはぁー」


冷蔵庫から出したミネラルウォーターを一気飲みして


コップを片付けながらチラッと横目で翔聖を覗き見ると、


「………?」


なんだか凄く思いつめた顔をしていた


私も最近少しはわかるようになったけど


翔聖の表情はわかりにくいから、誰が見ても分かるくらい表情が出てるともう翔聖はそれ程追い詰められてる事になる


もちろん、嬉しい、とか楽しいっていう感情なら良いんだけど…


そして今、翔聖はきっと何かに追い詰められてる


"辛"という感情によって


声を、掛けても良いのかな…?


こんないつまでも変化に気づいてあげられない私なんかが。



正直わかんない…でも、


それでも私は翔聖を近くで支えたい





私はゆっくりと翔聖の隣に腰を下ろした


「何してるの?」


しばらく無言だったけど思い切って話しかけた


だけど


「…特に何も」


た、確かに何もしてないけど…


雑誌は開いてあるけど読んでいる形跡は無いしテレビをついていない


「こ、こんな時間に何でここにいるのかなー…って」


チラッと翔聖を見ると翔聖もこっちを見ていて


「……………っ」


内心ドキッとした。


でも、先に視線を逸らしたのは翔聖で


「…なんとなく目が冴えた」



そう答えながら、それとなく私から距離を置いた


「……………そ、そっか」


どうして、そんな見え透いた嘘をつくの


どうして、私から距離を置こうとするの



踏み込むな、と拒絶されたようで心がチクリと痛んだ



だけど…ここで私が逃げたら翔聖は誰にも何も言わない


そして自分を追い詰めてしまう


私は…そんな姿見たくないよ


膝の上でギュッと拳を握り締めた


「翔聖、私ってそんなにダメな彼女?」


私が呟くとパッと私を見る翔聖


「私は…っ、確かに翔聖に何もしてあげられない


透真よりも翔聖を理解してあげられる自信もないし気の利いた事も言えないかもしれない


だけど、私は翔聖の事知りたい


…誰よりも近くで支えたいよ


それは…私じゃだめ?」



言った、言ってしまった


返事を待つってこんなに緊張するんだって初めて知った






視線を下げ俯く事数十秒。


「……………」


「……………」




翔聖から返事は無かった


だめ、だったんだ…。


「ごめ、ん…」


やっぱり先に言葉を発したのは私で。


歪む視界と震える声を抑えて立ち上がった


もう耐えられない


そして、歩き出したその時


「……………っ!?」


手がグッと引っ張られたと思ったらもうすでに体が後ろに傾いていた


そして、


私の大好きな優しい香りに包まれた



でも、そこにいつもの温もりは無い



「紅愛……」


「翔、聖…?」


今にも消えちゃいそうな声に思わず名前を呼ぶと、更に力強くギュッと抱きしめられて。


「…お前が隣で笑ってくれるなら何もいらねえ」


「………大丈夫だよ。ずっと一緒にいる」


すると頭がコテンと肩に乗っかって右手は私の頭に添えられた


初めて見る余裕の無い姿にただ戸惑って


私はただ大丈夫、大丈夫だよ、と背中をポンポンとするしかなかった



少しでも不安が無くなるように、そして





…冷たくなり過ぎた体温が元に戻るように

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