恋は盲目〜好きって言ってよ

そんな私の気持ちなんて知らない彼は、

何もなかったように話かけてくる。


「どれがいいと思う?」


(彼はお客様…そう、彼はお客様よ。笑顔

、笑顔…)


自分に言い聞かせる。


「そうですね。……お客様にはこちらの

ネクタイがお似合いかと思います」


作り笑いでネクタイを渡した。


彼は、なぜか苦笑しているから余計に怒

りがこみ上げる。


「じゃあ、それとこれにするよ」


「…ありがとうございます。また、お待

ちしています」


(早く、帰って、もう、2度と来ないでほ

しい)


そう思うのに彼に肩をポンと叩かれ耳元

で『またね』と囁かれ胸のドキドキが止

まらない。


閉店後のロッカールームで、やっぱり花

村さんから嫌味を言われた…


「松井さん、新規のお客様の好みもわか

るってすごいわよね……」


入社してから、彼女は何かにつけて粗探

しや嫌味を私にむける。争う事がめんど

うで、いつも受身で彼女の話を流してい

た。


「お客様に媚を売るのだけは、上手なん

だから…」


バタンとロッカーを閉めると一睨みして

出て行く花村さん。


「お疲れ〜、花村女史の嫌味炸裂してす

ごかったね」

クスクスと笑いながら私に話かけるのは

隣の店舗の雑貨店で勤める篠崎 早希。


「もう、笑いごとじゃないよ」


あいつのせいでしばらく嫌味の日々が続

くと思うと気持ちが滅入ってしまう。


「原因は、あのイケメン⁈奈々、知り合

いぽかったけど…」



「知り合いっていうか…この間チカンか

ら助けてくれたの。ただ、それだけだっ

て」


「ふーん、その割りには、仲良くしてた

じゃない」


「してない‼︎」


だが、彼だって…。


帰り道、彼に怒りを覚える一方で失礼な

態度だったと反省する自分もいた。

自分に言い訳をしながら駅から出ると、

ポツポツと降っていた雨が土砂降りにな

っている…


風も強く吹き、傘をさして歩いて帰れる

状況ではなかった。何人も駅の構内で立

ち往生し、外ではびしょ濡れになりなが

らタクシーに乗るサラリーマンから家か

らの迎えで車に乗り込む学生達…


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