うつくしいもの

『秋原とは、もう話がついてるから。

703号室に、あいつは居る』



「それって…」



『ホテルの部屋に行って、
秋原の機嫌取ってきて』



「――行くわけないじゃないですか」



ふざけないで


そう怒鳴ってやりたい



もう限界――…




『最近の優雅、追い込まれているよね?
思うように曲が作れなくて』


その言葉に、感じていた怒りが消えて、

心臓がドキンと跳ねた



『だから、秋原とコラボでもやって、
少しは優雅を休ませてあげたら?』



寺岡さんはそうやって、
痛い所を突いて来る





最近の優雅は、

曲作りが上手く行かない辛さで頭も心も一杯一杯になっていて、

いつか壊れてしまうじゃないか?って、

見ていて怖くなってしまう




もし、私が秋原さんの所へ行けば、
少しは優雅を助けてあげられる?




私は誰よりも優雅の一番近くに居るのに、

そんな優雅を見ても何もしてあげられない事がずっと歯痒かった





「――分かりました」


私がそう言うと、

じゃあ頼む、
と寺岡さんは電話を切った




歯を食いしばり、
席へと戻る







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