俺は後輩でしかなく
後輩でしかなく





 俺はその日、「勉強なんてくそくらえ」と思った。
 そしてその言葉を実際に口に出してしまった――――人がいることに気づかずに。


 その人は学校指定のジャージ姿だった。そして水道から繋いだホースがアスファルトの上に続き、その人の手へと続いていた。その人は俺が急に声を出したので驚いたようにこちらを見ていた。
 俺はその人のことを知っている。
 俺の一つ上の学年で、先輩。確か名前は――。




「えっと、すんません。大声なんか出して」

「ううん。でも勉強なんかくそくらえ、だなんて」

「先生にあれこれ言われたんですよ。倉田先輩は、一人で水やりですか」




 校舎のすぐ近くに花壇がある。
 その花壇はクラス専用でそれぞれがあって、たいていは当番制であった。俺のクラスも水やりは当番制だったことを思い出す。女子はともかく、男子はめんどくさいそれを俺もしかたなくやったことがあった。
 倉田先輩は頷く。




「今日当番の子に頼まれちゃって」

「先週もやってませんでした?それ」

「やってた。よく知ってるね」

「あ、いや。たまたま見たんですよ」




 焦ったそれに先輩が変にに思わないだろうかと気にしたが、先輩はもうこちらを向いていなかった。ほっとするのと、少しだけ残念でもあった。
 ―――倉田先輩のことを知ったのは、たまたまだ。
 俺はいろんな人とよく話す。先輩も後輩も、もちろん同級生とも、だ。
 はじめて倉田先輩と一対一でしゃべったのは、美術部の部室だった。
 美術部の顧問に俺は用があった。どこにいるか他の人に聞いたが、美術部の部室にいることを聞いて、俺は重い足取りで向かった。


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