恋のはじまりは曖昧で

私たちが何をやっているかというと。
月に一度、社内報が発行されていて“社員の一日”という特集ページがある。
今回、フレッシュマン特集ということで営業部の新入社員、浅村くんと私が選ばれたんだ。
浅村くんはすごく張り切って撮影やインタビューに答えていた。
私は社員の人に顔写真を見られるのは恥ずかしくて本当は嫌だったから、断れるものなら断りたかった。
決定事項だから無理な話だけど。

広報部から近藤さんという男性と幡上さんという女性が取材に来てくれた。
先ほどインタビューを受け、あとは写真撮影を残すのみ。

浅村くんとツーショットと私個人の写真。
どうにか、浅村くんとの写真は撮れたんだけど、一人っていうのは緊張が倍増して。

「そんなにカメラを意識しないでいいわよ。自然体でいいからね」

「そうだ、誰かと会話してみようか。そしたら大丈夫でしょ。こっちは適当にシャッターを切るから普段、話している雰囲気でお願いできる?」

私の不甲斐なさに広報部の人たちが助け舟を出してくれた。
そして、弥生さんが「じゃあ、私が話し相手になります」と名乗り出てくれた。

「紗彩ちゃん、今度一緒に買い物にでも行こうよ」

早速、話を振ってくれて会話が始まった。
弥生さんのお陰で私も普通に笑顔を交えながら話が出来た。
二人で話している途中で何度かシャッター音が聞こえた。
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