恋のはじまりは曖昧で

私は二人の後姿を見て、悔しくて堪らなかった。
何が悲しくて自分の彼氏と他の女の人が並んで歩いている後ろ姿を見なくちゃいけないんだろう。
今まで感じたことのない嫉妬心が私の中に渦巻く。

あの人のことをまどかさんて呼んでいたのに、私のことは“高瀬さん”だった。
そんな些細なことも気になってしまう。

まだ会社の近くだし、誰が聞いているか分からないから仕方がない、と自分自身を無理矢理納得させるしかなかった。

町村さんは私のお陰で会えたと言った。
私が定時で帰らなかったら、残業していれば、会うことはなかったのかも……って、たらればを言っても現状は変わらない。

どんな話をするんだろう。
思い出話にでも花を咲かせるのかな。
町村さんは元カノだと思うけど、田中主任は歓迎していないみたいだった。
雰囲気から、町村さんは田中主任とよりを戻したいのかも知れない。
もし、そうだったら田中主任はどうするんだろう。

嫌な考えが浮かんできて、ブンブンと頭を振りそれを追い払う。
勝手に詮索して落ち込むのは止めよう。
そんなことをしても何の得もない。

前に私の噂がたった時、田中主任は私の言葉を聞くまでは信じないと言ってくれた。
だったら私も田中主任のことを信じて、説明してもらうまで余計なことは考えないでおこう。
そう思うけど、不安な気持ちは拭えず、重い足を引きずるように家路についた。
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