恋のはじまりは曖昧で

「私たち、お互いに嫌いになって別れた訳じゃないし、浩介は私と別れた後はかなり荒れたって話を聞いてるわ。それだけ私と別れたことがショックだったってことでしょ」

町村さんはペラペラと好き勝手なことを言う。

何が悲しくてこんな話を聞かなきゃいけないんだろう。
田中主任の過去の恋愛の話は気にならないと言えば嘘になるけど、そんなことを聞く勇気がなかった。

社内でモテるという話は何度となく耳にしていた。
好きだと自覚してからは、些細なことで落ち込み胸を痛めていた。

だけど、元カノの話は比べ物にならないぐらい私の気持ちをどん底に落とすには十分な威力だった。

町村さんは嬉しそうに目を細め、追い討ちをかけてきた。

「昨日、浩介にやり直したいと伝えたわ。きっといい返事をもらえると思うの」

その言葉に唖然とする。
田中主任はやり直すつもりはない、よね?
一瞬、不安がよぎった。

でも、まだ田中主任から何も話を聞いてない。
町村さんの言葉に惑わされちゃダメだ。
私は田中主任の言葉しか信じない。

「だから、もし浩介が私を選んであなたに別れを告げても恨まないでね」

何とか冷静さを取り戻した私をあざ笑うかのように町村さんは口元に笑みを浮かべて言った。
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