恋のはじまりは曖昧で

宴会の途中、通路で森川さんに壁際に追い詰められた時、田中主任が来てくれて本当に助かった。
完全にテンパっていて、頭の中が混乱していた。

あの後、二人がどうなったのか気にはなるけど、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
今さら言うのも変だけど、ちゃんと言っておかないと。

「それと、昨日はありがとうございました」

「ん?昨日って……」

田中主任は不思議そうに首を傾げている。
そして、思い出したかのように「あぁ」と声を出した。

「あれね。何か二人の様子がおかしかったから気になってつい、ね。高瀬さんと経理の森川さんて接点がないだろ。なのに二人で話をしているのは変だなと思って声をかけたんだ。自意識過剰って訳じゃないけど、俺ら営業と関わっていると女子社員のやっかみとかあるから。ああいう場面を見ると手遅れになる前に、お節介だと思っても口を出したくなるんだ。それに高瀬さんが困った顔してたから、声をかけずにはいられなかった」

話を聞いていて、あることを思い出した。
田中主任は社内でイケメン御三家と言われていて人気があるんだった。

女子社員のやっかみとか、手遅れになる前にということは、以前に何かあったのかもしれない。
それで、万が一ってことを考えて声をかけてくれたのか。
田中主任の気遣いに改めて感謝だ。
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