君と夢見るエクスプレス

「だろうね、よかった。今日は一人だから寂しくてね。付き合ってもらえるかな?」
「はい、もちろんです。奥さんも大変ですね」
「うん、嫁の祖母が入院することになったから実家の手伝いだけどね」
「お祖母さん、具合は悪いんですか?」
「いや、胃潰瘍らしい。念のため義母が病院に泊るから、義父ひとりになるだろ?」
「お義父さんが心配だから……ですね」
「ああ、何にもひとりでできない人らしい」



笠子主任と姫野さんの会話を聞いていたら、完全な私の勘違いじゃない。姫野さんが誘ってくれたのも、笠子主任が誘ってくれたのも全部。



「松浦さんも行けるよね?」



姫野さんが呼び掛けるけど、私はちょっとした放心状態。



「松浦さん、今日は僕にご馳走させてよ。もちろん姫野君も」
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えさせていただきます」



姫野さんの弾むような声を聴きながら、私は恥ずかしさと情けなさに隠れる場所を探していた。



今ここに穴があったら、ダイブしてしまいたい。
いっそ、ここから消えてしまいたい。



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