アイツ限定


「だから何?好きだよ。誰よりも、マリよりも!」



千夏は、うずくまったまま、あたしを見上げて言ってくる。

千夏自信は気づいてはいない。

もう、雅人を愛してはいないということに。



「千夏は、雅人のどういうところが好きになったの?」



あたしは、口調を柔らかくした。

千夏にあたしの言葉が素直に受け取ってもらえるように。



「は?全部に決まってるじゃん。」



「そう。千夏は、雅人に幸せになってほしいと思う?」



「千夏と一緒になれば、千夏が雅人を幸せにするもん。」



「千夏の幸せが、雅人の幸せとイコールになるわけじゃない。あたしが思う、本当の、真実の愛っていうのは、人の幸せを願えるひとだと思う。」



「……そんなの、綺麗事だよ。」



そう言って。千夏はゆっくりと、立ち上がった。

そして、あたしの目をじっと見てくる。



「雅人は、見る目がないんだよ。きっと、そのうち、千夏の目の前にいい人が現れるから。」



そうは、いってみたものの、千夏はあたしの言葉には全く反応しなくなった。

ただただ、あたしの目をジーっと見てくるばかりで、しゃべってこようとはしない。

時間だけか、過ぎていく。

もう、辺りは、オレンジから紺へと、移り変わろうとしていた。



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