センセイの好きなもの
「ツム、里帰りはどうだった?」


「楽しかったですよ」


この笑顔を見る限り、嘘じゃなさそうだ。

ツムが持ってきたビニール袋には、持たされたという野菜が入っていた。
今食卓にあるそら豆とトマトを他に、きゅうりに枝豆に春キャベツ、新玉ねぎ。
畑で育ったものだという。


「先生は一人でドライブですか?」

「そう。お袋のお墓参りのついでにだけどな」


ツムはえっ、と言うと箸を止めてしまった。俺には何気ないことなんだけど、他人からしたらそうじゃないよな…。


「俺がハタチのときに末期癌で亡くなったんだ」

「そうだったんですか…」


楽しい空気が一瞬でしんみりしたものに変わってしまう。
ツムは俺の思い出話なんて聞いてくれるかな?


「ツム、せっかく作ってくれたのに冷めたらもったいないぜ。食いながらでいいからさ、ちょっと聞いてくれよ」


目玉焼きの乗ったハンバーグは俺が小さい頃から母が作ってくれていたもの。でも味の記憶はもうない。
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