素直になれたら


「ごめん綾奈。今日、私日直だから先帰ってて」

「うん、分かった。ばいばーい!」

放課後。
今日は少し気分が良い。

「げ。今週、ハルと日直?」

健二と二人で日直だから。

「そうだけど、文句ある?」

「いや、別にー」

と言いながら、教室を去る綾奈の小さな背中を名残惜しそうに見つめる健二。
たかが日直ごときに、ぐじぐじこだわるなっての。


「そんなに綾奈が良かったの? あー、そっか健二は綾奈のことーー」

「ばっ、やめろって!」


咄嗟に慌てた健二が、私の口を押さえる。
その手が軽く唇に触れた。

複雑な気持ちになりながらも、恥ずかしそうな表情が愛おしい。
頭を掻きむしり、周りに見られていないか気にする仕草は、彼の定番。
普段は堂々としてるのに、こういう時に限って弱くなるのが可愛い。

少しすると、教室には二人っきりだった。
幼馴染故なのか緊張感は全く無い。
というか、まず向こうは私が女だとすら意識していないだろう。


「綾奈、好きな人いないって」


向かい合わせになって、私は日誌を、彼はプリント整理をする。
しんとした空気の中、ため息がはっきりと聞こえた。


「まじかよー。俺、眼中に無いってこと?」

「さあ、でも違う男が好きなのよりマシでしょ」


姿勢が雪崩のように崩れ、嘆く健二。
私はその頭をそっと撫でる。


「大丈夫だって。健二が良い奴なのは、私が保証するから」

「...サンキュ。お前も好きな奴出来たら、この健二パパに言えよ」

「はいはい」


馬鹿。
言えたら苦労しないっつーの。
< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop