カメカミ幸福論



 午後4時を過ぎると、会社の中は忙しない空気が広がる。

 ただし、私の周り以外。




「亀山さ~ん!すみませんが、ここ訂正お願いします。もう時間ないのでこれ優先でお願い出来ますか?」

 後輩の美紀ちゃんがうんざりって文字を大きく顔に書いて書類をヒラヒラさせている。

 先輩の顔の前で書類をヒラつかせることを注意するべきか、一瞬考えた。

 だけど既に職場内には敵ばかりな状態で、更に増やす必要はない。それも、私と話せる数少ない後輩とくれば、ケチをつけるのはやめておくべきよね、やっぱ。

 私は書類を手に取って、どこ?と一言聞く。ちなみに書類にはご親切にポストイットがはってあって、どう間違えていて、何が正解なのかまで書いてあるんだけど。

 ふううう~・・・。美紀ちゃんが大きく大きく息を吐いた。多分、心の中で呪文かまじないか、もしかすると呪いの言葉を呟いているのだろう。

「どうしたんですか、亀山さん」

 見たら判るでしょ!と言うのはやめたらしい。代わりに華奢でゴージャスな眼鏡をくっと上げて、美紀ちゃんは私に声をかけた。片眉まで上げている。

「何が?」

「いつも以上に使えなくなってますよ。いつも以上に不機嫌だし。今日はそんな忙しくなかったと思うんですが」

 ・・・うん、毎度のことだけど、君はハッキリ言うねえ。


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