素顔のキスは残業後に
「ちゃんと味見したんだな、合格」


至近距離にある艶やかな瞳に意地悪な色が挿し込む。

柏原さんは楽しげに笑いながら青ネギ付きの人差し指を私の目の前に掲げた。


唇に青ネギがついてたんだ、恥ずかしすぎる…


心で呟くと耳朶まで熱を持つのがわかる。

それに気付かれないように耳にかかった髪をそっと掻きあげると、重なることを意識した彼の唇は、意外な言葉を続けた。






「電話くらい出てほしかったです」


「無理だろ、普通に寝てたし。俺だって突然お粥を作り出す桜井に意味が分かんなかった。
まぁ、五月の早とちりに踊らされたってことで、アイツに高級ランチでもおごって貰え」


柏原さんはそう言って小さく笑う。


低いエンジン音が響く車内。
助手席に座る私の足元に生ぬるい温風が流れてくると、車は静かに動き出した。

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