素顔のキスは残業後に
「もしかして、村瀬さん狙いだったの?」

「ちょっといいなぁって思ってた時があったけど、彼女いたしね」

「そうだねぇ。結局結婚しちゃうんだし止めといて正解だったじゃん」


これ以上聞いたら、ダメだ。


そんな心の叫びが胸をキリキリと軋ませる。
呼吸を一度整える。動かしかけた足。


その動きを止めさせたのは、美香ちゃんではないもう一人の彼女の声だった。



「違うって、結婚する彼女じゃなくて友花さんのこと。

前に二人が手を繋いで歩いてるとこ見たことあるんだぁ。でも結婚する彼女は同級生っていうし。

それって友花さんが振られちゃったってことだよねぇ」


吐息混じりの哀れみの声が耳の奥まで響き伝わる。

この場所は、彼女達からは死角で見えない。ドクンッと強く脈打つ鼓動も届かない。

心を落ち着かせる為に瞳を閉じる。


< 71 / 452 >

この作品をシェア

pagetop