【B】姫と王子の秘密な関係




「お父さん、ごめん。
 大学生と、本部の研修生。

 付き合ってるの、お父さんには言い出せなかった。

 でも私の交際は真剣だよ。

 覚えてる?
 小さき時、花火大会で迷子になった私をお父さんたちの前まで連れていってくれた男の子。

 あの人が高崎さんなんだよ」


そうやって告げると、お父さんとお母さんはその記憶を思い出したみたいに
驚いた眼差しで、二人顔を見合わせて、そのまま晃介さんへと視線をうつす。



「そうか……。

 君があの時の少年か……」


しみじみとお父さんが呟いた本音。


お父さんの話し方が、今は本部の人間としての晃介さんではなく
ただの高崎晃介さんを感じながら話してくれているのがわかった。


「本当に高崎さんは、何時も音羽の白馬の王子様ね」


お母さんもそうやって穏やかに微笑んだ。



その後、お父さんは晃介さんの持ってきた書類に
自らペンを握ってサインを書き込む。




「有難うございます。
 遠野オーナーの現場復帰まで、責任もってお預かりします」




晃介さんはそう言うと病室を後にした。



「お父さん、お母さん私一度、お店に顔出してくるね。
 和羽も心配してくれてるから」


口早に告げて、晃介さんの後を追いかける。




「晃介さん」


後ろから名前を呼ぶと、晃介さんは驚いた貌(かお)を私に見せる。



「お父さんについていなくていいの?
 お店のことは気にしなくていいよ」

「少し一緒に過ごしたいのと、有難うが伝えたかったから。
 晃介さん、何時も私の家族のことを思ってくれて有難う」

「当然のことだよ。
 音羽ちゃんの家族は、俺にとっても家族になる人だから。

 音羽ちゃん、代理オーナー宣言した直後で申し訳ないんだけど
 3月1日だけ、俺、休み貰っていいかな?」


晃介さんは私に切り出す。


「3月1日ですね。
 どうかしたんですか?」

「俺の大学卒業式だから」



突然のその言葉に、
私はかなりの勢いでびっくりする。




私より遙かにいろんなことを知っていて、
頼れる存在で、ある意味、小川営業さんより信頼できる本部のスーパーバイザー。




そう言えば……最初の自己紹介、説明されていた言葉……。





「お疲れ様です。

 小川SVの傍で補佐しつつ研修させて頂くことになりました、
 高崎晃介です」

「高崎君は来年春から、入社が決まっている。
 今回は上の意向で、入社前に俺が預かることとなった」


「改めまして、高崎晃介です。

 今日から、春頃までかな、お邪魔させて頂くと思います。
 大学行きながらなんで、顔出せる時間は限りがあると思うんだけど」



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