【B】姫と王子の秘密な関係




今日、17軒目の1軒家の前に立って、
チャイムに手を伸ばす。


ピンポーン。

コールと同時に、インターホンのスピーカー越しに住人の声が聞こえる。



「はーい」

聞こえる声は、年配の女性。


「突然申し訳ありません。
 私、近くでコンビニを運営していますフレンドキッチン本部社員の高崎と申します。
 本日は、桜川1丁目店周辺のお客様にご挨拶を兼ねて、一軒一軒まわらせて頂いてます。
 宜しければ、お時間を頂けませんか?」

「あぁ、そこの梁田さんとこのコンビニね。
 今行きます」


暫くして建物の中から姿を見せたのは、
少し足の不自由さを感じる年配女性だった。


「改めまして、わざわざ有難うございます。
 私、高崎と申します」

そう言って、ネームプレートをお客様に見えやすいように視線に持ち上げる。


「びっくりしたのよ。
 梁田さん、突然亡くなってしまって。
 あそこのお店は、奥様が頑張るのかしら?

 足が悪い私には、あそこまで行くのがようやくで
 頼りにしてたのよ」


そう言って店の存続を気にかけてくれるお客様。


「桜川一丁目店は、梁田オーナーのもとを離れて
 今は私共、本社の人間が運営しております。
 お店はなくなりませんので、ご安心ください」


そう言うと、お客様は安堵したように笑みが零れる。


その後はお客様の満足情報、
お店に求めるリクエストなどのアンケートに答えて貰って、
粗品のお菓子を手渡して来週からのセール情報の掲載されたチラシを手渡す。




「有難うございます。
 桜川一丁目店のことで気になることがございましたら、
 何時でもお声掛けください。

 お体の不自由な方や、重い荷物が持てないお客様の為に
 近隣のみとなりますが、配達サービスの連携が出来るように
 本社のものと掛け合ってみます。

 今後とも、桜川一丁目店をお願いします」




ゆっくりとお辞儀をして、その家を後にして
また次の家に向かい始めた頃、「高崎さん」っと俺を呼ぶ声が聞こえた。



反射的に、声の方に振り返ると
不思議そうな顔をして俺を見る、音羽ちゃんが存在した。


突然の音羽ちゃんの登場に内心、俺自身もドキドキする。



「音羽さん、こんにちは」


声をかけると彼女はゆっくりとお辞儀をした。


「高崎さん、こんなところでどうしたんですか?」

「フィールドワークって俺たちは言ってるんだけど、
 店舗周辺の情報収集してた。

 今日は、あの角までだから、後三軒かな。
 音羽さんは?」

「あぁ、私は大学のゼミ仲間がこの先に居るんです。
 それでレポート作成しに、友達の家に。
 今日は和羽はダンスのレッスンだし、私もバイトは休みだから。

 あの……もしよければ、
 後三軒一緒についてまわってもいいですか?」 


突然問われた言葉に、驚いたけれど
一緒にお客様の家を訪問することで、
彼女たちの意識が向上することもあるかもしれないと同席に頷いた。

残り三軒、三軒中の一軒は留守で訪問できなかったけど
二軒の住人とは、話を聞くことが出来て、
そのお客様にも、桜川一丁目店の梁田オーナーが慕われていたことと、
今後の店舗の行く末を気にかけてくださっていることが強く伝わった。


丁重にお辞儀をした後、データー収集を終えて
書き留めた膨大なアンケートなどを鞄の中に片付ける。


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