【B】姫と王子の秘密な関係



「緊張しなくていいよ。
 晩御飯も、付き合って貰ってるから今日は御馳走するよ。

 俺も少し、音羽さんとはゆっくりと過ごしてみたいって思ってたんだ」


そう言って突然切り出された言葉に私は、内心ほっとしたものの、
アキラさんが高崎さんだって、カミングアウトしようとしてくれてるのかもしれないって
その言葉を解釈した。


暫くして、注文した商品がテーブルへと届けられる。


高崎さんが注文した商品は、ナスとベーコンって言う定番の組み合わせなのに、
アーモンドスライスが散りばめられていて、今までに食べたことのない感覚だけど
バルサミコの甘味と酸味がいい感じ。

私が注文した商品も、卵とマヨネーズ味のマカロニに、
独特の香りと風味を持つクレソンを合わせてすっきりとした味わいになってた。



喫茶店で食事中は、ストアサブマネージャーの勉強の話題が始まる。

勉強会みたいになってきた状況から抜け出したくて、
私はそのまま自分のことをひたすら話し始めた。


アキラさんだったら、何か反応が帰ってくるような気がして。


本当だったら、コスプレしてることとか、誰にだって言える趣味じゃないけど
ある意味、私にとってのかけ。


だけどその会話の中も、高崎さんはじっと私の話を聞いてくれたけど
それに対して、高崎さん=アキラさんだって話にも続かなかった。


晩御飯を食べ終わると、その喫茶店を後にして、
駅ビルの最上階にある、展望台スペースに入場料を払って入っていく。


その入場料も、私が財布から出そうとしたら、高崎さんが支払ってくれた後。


展望台から外の景色を見つめながら、再度挑戦。
今度は玉砕覚悟の直球勝負。




「あの高崎さんって、アキラさんじゃないんですか?」




アキラ。


=だったら、その名前が何を指すのか説明しなくてもわかるはず。

そして、その名前を聴いた時の、高崎さんの表情をしっかりと観察してたら、
心が読み取れるかもしれない。


じーっと告げた後、見つめて感情を読み取りたかったのに
私の意識は別の方向へと乱された。




ひゅるるるるドーン。




展望台越しに夜空に大輪の花を咲かせる秋花火。



その大輪の花は、私を釘付けにする。
そう花火は、私にとっての王子様との出逢いだから。




「遠い昔、こうやって花火が打ちあがってた時に
 迷子になってる女の子を助けたことがあるんだよね」




ふいに抱きしめられるように後ろから囁かれる高崎さんの声。


その声が紡ぐのは……
私の記憶にある、あの大切な王子様との出逢いに似て。



「もしかして……リンゴ飴くれた?」


おそるおそる、後ろを向いて問いかけると
彼は、ゆっくりと頷いてくれた。



「嘘……、王子様……」

「王子?俺が?」


そう言いながら、高崎さんは私をギュッと抱き寄せて
静かに唇を重ねた。


後ろでは、また大輪の花を咲かせる花火の軽快な音が響いている。



久しぶりの再会を噛みしめるように、
神様が出逢わせてくれた偶然の贈り物に、
心地よさの中、体を委ねた。



その後も展望台から花火を楽しむ最中、
親からの電話で、今の時間を知った。



もう21時をまわってる。




「もしもし、お母さん。
 ごめん、大学の友達とレポートしてたから」


そう言って電話を切ろうとしたら、
高崎さんは私を真っ直ぐに見据えて首を横にふると、
静かにその電話を掴み取った。


「遠野店長、お疲れ様です。
 SV補佐の高崎です。

 お嬢さんをお返しするのが夜分になってしまい申し訳ありません。

 フィールドワーク中に、お友達のお家から帰省しているお嬢さんと出逢いまして
 お嬢さんの経験にもなると思い、急きょ、同行して頂いてました。

 今から僕が責任もって、送り届けます。
 桜川駅からですので、30分ほどでお送りできると思います」



高崎さんはそうやって告げると、展望台を降りて
タクシーを捕まえると、私の家でもあるコンビニ名を告げた。
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