スタートライン~私と先生と彼~【完結】
先生は何も言わずに、私の話を聞いてくれていたが、私の脳裏に浮かんだのは、『迷惑』の文字。
先生は拒否できないだけで、私の話なんて聞きたくないのかもしれない。
第一、担任ではないのだから・・・。
だから、何も声を発しない先生の表情を顔を上げて、見ることができなかった。
「俺にもそんな時期があった」
先生のその言葉に、私は顔を上げると、先生は思い出すように学生時代の話をしてくれた。
その当時、担任だった川田先生との話がとても印象的だった。
斎藤先生は川田先生の言葉に救われ、私は今、斎藤先生の言葉に救われた。
「先生、ありがとうございました。私の気持ちも楽になりました。川田先生って、昔からいい先生だったんですね」
『いい先生』
それは斎藤先生にもあてはまるけど、私は照れ臭くてそんなことは言えなかった。
「こんな話しかできない俺は、まだまだだな」
先生は少し照れ臭そうに、天井を見ながら言っていた。
「そんなことないですよ!先生も素敵です!」
先生の姿を見て、思わず言ってしまった自分に後悔した。
私、何言ってるんよ!
顔から火が出そうなくらい、真っ赤になってるのがわかった。
「ありがとうございました。失礼しました」
この場からすぐに立ち去りたかったので、早口で言って、職員室を出ていった。
恥ずかし過ぎる!
『先生も素敵です』
そんなこと言うつもりなんてなかったのに・・・なんで言ってしまったんだろう。
先生が相談に乗ってくれたのが嬉しくて、舞い上がっていた自分の姿を想像するだけで、なんだか笑みが零れて来た。
先生が言ってくれたことを胸に留めながら帰ろうとしていると、正門で立っていた一人の人物に気付いた。