スタートライン~私と先生と彼~【完結】

伝えたい想い


「原田は冬休みの受験対策、来なくてもいいのに」

そう言うのは川田先生。

『冬休みの受験対策は、センター試験中心の対策だから、家で勉強した方が捗るんじゃないか?』
と言ってくれた。


確かにそうかもしれない・・・普段の私なら。

でも私は、先生に会いたいから、学校で勉強することを選んだ。

家に居ても塾で自習してても先生の事が気になって、勉強が手につかないし。


先生・・・。今日は水色のネクタイ。


「これはセンター試験の傾向をみて作ってあるから。これが出来た人は、もう少し難しい問題もあるから取りにくるように」



やっぱり集中できる。

すらすらと問題が解ける。

私は先生から配られた問題が出来たので席を立った。


「先生、この問題もらってもいいですか?」

「あぁ、もうできたのか?答え合わせしてやるから持ってこい」

先生が目の前で答え合わせをしてくれている。

それだけでドキドキする。


私の答案をじっと見ている瞳


軽やかに動く右腕

いつも使っている赤ペン

先生は、仕事をしているだけなのに、私はなんでこんなにドキドキするんやろう・・・。

運よくクラスのみんなを見渡しても、誰ひとりとして私たちのことを見てる人なんていない。

私が今、そっと先生に何かを言っても、みんなは気付かないくらい集中してる。

私の妄想を破ったのは、先生の言葉だった。


「さすがっ。完璧やん!」

先生はペンを置くと、笑顔で私に言ってくれた。

先生の笑顔いただきました!

先生の言葉と笑顔に私も自然と笑顔になっているのがわかった。


「頑張ってるな」


そう言いながら、先生は私の頭に手をポンと乗せた。私は何が起きたのかがわからなかったが、先生の大きな手の感触から、今の状況を把握した。

うわっ、みんなの前で・・・。

でも、みんな見てないね。

先生が私に触れていたのは一瞬だったが、私にとっては、事件だった。

これまでも何回か、こうやって頭を撫でられたことはあったけれど、何回されても馴れることなんて出来なかった。


それと同時に、『頭を撫でる』という行為が大人が子供にするイメージがあるので、『やっぱり、子供扱いをされてるんやな』と少し落胆してしまう自分もいた。


でもこんな気持ちになれるのももう少しだけなんやな・・・。


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