スタートライン~私と先生と彼~【完結】
今日はさっちゃん達の卒業式。
俺は、木下と圭と一緒にさっちゃんの学校に来た。
学校内に入るわけにはいかないから、正門の外で待ち伏せ。
待ち伏せは、俺だけか・・・木下と圭はお迎えか。
少しずつ校舎から生徒が出てきた。
みんな名残惜しそうに写真を撮ったり、話をしている。
俺は、その中から、さっちゃんを見つけたかったが、一番に目についたのがあいつだ。った。
斎藤・・・先生。
卒業生に囲まれて写真を撮っている。
その列の中にさっちゃんもいた。
俺は、今すぐさっちゃんを連れ去りたかった。
さっちゃんの番が近づく。
さっちゃんの顔が少し強張ったのがわかった。
俺たちの存在には、まだ気づいていないようだった。
とうとう、さっちゃんの番が回って来た。
何やら笑顔で話している。
かと思ったら、さっちゃんが真剣な眼差しで、あいつに何かを言っていた。
その言葉に対して、あいつは顔をさっちゃんの方には向けず何かを言い、写真を撮ってもらっていた。
なんでそんなに悲しそうな顔をするんや?
さっちゃんはなんと言ったんや?
そしてお前の返事は?
さっちゃんは写真を撮り終わったら、橋本さんと写真を撮ったり、他の子と話したりしていた。
木下と圭は、ジュースを買ってくると言って離れた。
俺はさっちゃんの事を見つめすぎていて、近づいている影に気付かなかった。
「負けたよ」
俺の前には最大のライバルが立ち、敗北宣言をしていた。
その声に俺は目を見開き、目の前の男を見据えた。
「はぁ?」
何を言ってる?
「原田を頼むな」
男は、口角を僅かにあげてそんなことを言った。
「『頼む』ってさっちゃんはあんたの事が・・・」
俺は、男の言葉に反抗するように声を出したが、それはなんとも弱々しかった。
「知ってる。でも、それは憧れなんや」
知ってる?
憧れ?
そんなんじゃない・・・さっちゃんは、お前が先生になる前から・・・好きやったんやで・・・?
「俺の生徒を泣かしたら承知しないからな!」
何も言わない俺に投げ付けるように言った言葉にも、俺は声が出なかった。
「返事は?」
「はい」
俺は小さな声で言った。
悔しかった。
あいつの言いなりのように返事をしてしまった自分に対しても腹が立った。
そして、あいつがわざわざ俺に敗北宣言しに来たことによって、『お前の負けだ』と言われたと感じた。
さっちゃんの事を『生徒』と言うなら、お前はなんで涙を浮かべてるんや?
『憧れ』とかなんやねん!
さっちゃんはお前なんかに憧れるか!
さっちゃんの気持ちもわからんお前になんかに憧れるか!!!
ドアホ!
あいつにいろいろ言いたかったが、すでに校舎へ戻ってたから何も言えなかった。
俺は、どこまでもヘタレで・・・どうしたらいいのか、道を見失っていた。