プラトニック・オーダー
雪菜の言葉に、誠二さんが笑う。
私もつられて笑いながら、小さく頷いた。

「そうだ、海外行く前に誠二さんのところでレシピ教わったらいいじゃない」

私が言うと、雪菜は困った様に笑う。

「薫~、私が料理苦手なの知ってて言ってる?」

「うん」

私が即答すると、誠二さんが堪えきれずに吹き出した。

「大丈夫だよ、雪菜ちゃん。レシピ通り作れば失敗しないよ」

せっかくのフォローも、笑いながらでは意味が無い。

「もう、二人ともバカにして。いいわよ、私だってね、奥さんになるんだから料理くらい出来るようになりますー」

むくれながら言う雪菜は、普段のサバサバした雰囲気なんて吹っ飛んで可愛い。
誤解されがちだけど、本当はナイーブなところもあるのだ。

「じゃあ、特訓付き合うね」

「え、本当?薫だから大好きだよー」

雪菜が助かった!と言わんばかりに笑顔で言う。
私も微笑むと、雪菜の予定と私の予定を照らし合わせる。

「私は大抵いつでも大丈夫だから、雪菜の予定に合わせるね」

「じゃあ、金曜の夜か土曜がいいかなー」

「ああ、まだ仕事してるんだっけ」

「うん、っていっても、9月いっぱいまで。ちょうど異動の時期だし」

雪菜は手帳に特訓!と書き込みながら答えた。
私も同じ様に書き込んでいく。

「あー、でも楽しみ増えてよかった。これで彼氏に残念な顔されないですむわ」

「お互い引っ越す前に、小さなパーティとか出来たらいいね。私たちで料理作るの」

「ああ、そしたら私が上達した証拠にもなるね」

二人で色々と計画を立てつつ、そんなことを話す。
もう、こうして気軽に逢えるのも残り少ないのだ。

 「よし、こんなところか」

雪菜が手帳を閉じて、時計を眺めた。
時刻は午後二時。もういい時間だった。

「じゃあ、今日は帰るよ。これから彼氏と打ち合わせするんだ」

「うん、気をつけてね。じゃあ、来週の土曜日で」

「うん、またねー」

手を振り、会計を済ませてカフェの前で別れる。
私も鞄の中から携帯を取り出すと、着信が一件きているのに気がついた。

「沙由?」

画面に表示されていたのは、沙由の名前。
私は首を傾げながら通話ボタンを押す。

短い数回のコールの後、電話のが繋がった。

「あ……先輩」

「どうしたの?」
< 40 / 51 >

この作品をシェア

pagetop