Cross Over

帰りの車の中。



海に行く前より、心なしか嬉しそうな彼女の声を聞いていた。



他愛もない話しを幸せそうに話す彼女の愛しい声に、運転しながら耳を傾ける。



もう駄目だ。



気持ちを抑えるなんて、とうてい無理なことだった。



そんな簡単な想いじゃない。



これから先のことは、どうにかしていける。


それでも俺は、彼女といたい。


近くにいたい。



その気持ちは抑えられない。




彼女の家の前に着いたら、付き合おうと言おう。

好きだと。






そんなことを考えながら、運転していると、

ふいに彼女が問いかける。



『先輩は、一人暮らしですか?』




『ああ。今度連れてってやるよ。』




やったあー、と嬉しそうに微笑む彼女に、ふっと顔を緩ませた時、





彼女の次の言葉が耳に届き、





一瞬にして身が凍りついた。







『先輩って、兄弟とかいます?』






ーーーー。







まわりの音が聞こえなくなった。




一瞬にして体が、空気が凍りついた。







『・・・・・先輩?』







ーーーー真っ青な空を後ろにこちらを見る姿が頭に浮かぶ。





はっと我に返り、自分を呼ぶ声に答える。






『・・・・ああ。悪い。』





信号で車を止めると、不安そうにこちらを見る隣りの小さな顔が目に入った。





そうだ・・・




そうだった・・・





俺は何を考えていたんだろう。




愛しいその姿に、冷静な判断ができなくなっていた。



自分のことしか考えてなかった。




ただ傍にいたい。


一緒に過ごしていきたい。


いつも近くにいたい。


こいつの、近くに。







だが、それは俺の勝手な願望だ。


彼女にとってそれは、幸せなことではない。





今はわからないかもしれない。



だが。






この先わかる。



俺といたら必ず、悲しい顔に変わる。


辛い表情に変えさせてしまう。






こいつの隣りにいるのは、

俺じゃない。






そのほうがいい。



そう、決めたのに。







『先輩ごめんなさい。あたし・・・っ』




自分が聞いたことに、俺の空気が一気に変わったからか、ショックを受けたような表情でうつむき、言葉数が少なくなる。




『いや、黒川が悪いわけじゃない。』




そう言ったものの、



俺もなんて言葉をかけたらいいかわからなくなってしまい、



車の中に沈黙が続く。






ーーー。


沈黙のまま、車を走らせる。



その空気のまま、彼女の家の前に到着する。





しばらく無言のまま、彼女は動かなかった。




俺も、動けなかった。





『すいません。ありがとうございました。』




彼女が言い、車を出ようとする。



『また。おやすみなさい。』



ふと、こちらを見た表情は、なんともいえない辛い顔をしていた。



引き止めようとしたが、車から出ていく彼女の手を掴めなかった。

掴んだらいけないと思った。



音をたてて、車のドアがしまる。



いつも、車が見えなくなるまで見ている姿がバックミラーに写っているのに、


彼女は玄関から家へと入って行った。


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