Cross Over


しばらく茫然と空(くう)を見つめていた。



これでいい。



これでよかったんだ。




このまま、離れればいい。




しばらく会わなければ、連絡を取らなければ、莉菜も俺を忘れていくだろう。



手を引くなら早いほうがいい。






ーーー。




その時、部屋のインターホンが鳴った。




時計を見る。11時を過ぎていた。




ゆっくり立ち上がり、部屋のドアを開ける。






『来ちゃった。』






開けられたドアに寄りかかりながら腕を組んで微笑む顔が、そこにあった。






『入れよ。』





訪れた来客を部屋に入れ、バタンと扉を閉めた。







『突然来るなんて珍しいな。』




リビングに入り、ソファに座る圭に話しかける。



『だって、全然連絡してくれないじゃない。電話もメールも、返ってこないし。』



大きめのトレーナーのようなラフな格好にジーンズ。
足を組んで、長くて緩いパーマのかかった髪をかきあげる。



 
・・・・最後に会ってから半年くらい経ってたか。


圭の言葉を聞きながら、冷蔵庫を開ける。






『・・・・俺だって、いろいろあんだよ。』





冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し、圭に1本渡し、隣りに座る。




・・・・。




ビールを飲む俺を見つめて、圭が怪訝そうに聞く。




『・・・・なんかあったの?』





『なんで?』




『いや、なんか元気ないからさ。』






圭の言葉に、今日のことを思い出す。



ふと、莉菜の顔が浮かんだが、

考えないように頭の中でかき消す。






何も答えない俺に、圭が続ける。






『あたしも、うまくいってないの。いろいろ。』





圭が、テーブルに頬杖をつきながらこちらを見る。





圭には婚約者がいる。



うまくいってないというのは、きっとその婚約者とのことだろう。






その男と何かあったとき、寂しいとき、圭から連絡が来る。



そして、その晩、圭が部屋を訪ねてくる。






体だけの関係。



一言で言えばそうだ。



お互いに割りきった関係。


深いプライベートには入り込まない。


ただ、お互い気まぐれに、気の赴くままに体を重ねる。




俺から連絡し、圭を部屋に呼ぶこともある。


大体月に1度、いや2、3度そのときの気分によっては、圭が部屋を訪れることもある。



たが、

ここ半年ほど、圭とは連絡を取っていなかった。


俺から連絡を断っていたのだ。





だから今日、圭の姿を見たのは久し振りだった。






『彼女、できたの?』





圭がこちらを見つめながら聞いてくる。





『いや。』



莉菜の顔が浮かんだが、頭の中でかき消すように考えないようにした。




・・・・。






『連絡しても繋がらないし、こうやって直接来なきゃ会えなかったから。もうあたし、迷惑かな?』





圭が近づき、首に手を回して抱きつきながら言う。




『いいんだ。別に。』



少し目をそらしてそう言うと、圭がはっとして、顔を除き込んできた。






『俊・・?泣いてるの・・・?』






圭の言葉に気が付くと、自分でも無意識のうちに、目から涙が溢れていた。





『・・・・。』





圭が、俺の髪をそっと撫でる。


そして、圭からゆっくり唇を重ねてきた。






・・・




俺には、あいつを幸せにしてやれない。




深入りしない関係。




俺にはそれしかないーーー。








何かが弾けた。



優しく唇を重ねていた圭の体を、急に強く抱き寄せ、深くキスをする。



本能のまま、気持ちや、頭の中のことを一気にかき消すように、

激しくキスをしながら、そのままベッドではなくソファに圭を押し倒す。



圭も俺の首に腕を回し、キスに応えながら絡みついてくる。


そのままその場で、圭と朝まで絡み合ったーー。

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