おやすみを言う前に

「なあ、麻衣子。」


ソファーから起き上がると、拓馬は私の後ろに回ってぎゅっと抱きしめてきた。


「なんで俺に頼らんねん。」

「いつも頼りにしてるよ?拓馬が一緒に住んでくれてるから安心だよ。」

「そうゆうことちゃうくて。」


こっち向き、と促されて、緩められた腕の中でくるりと拓馬の方に回る。

すると、ごつんとおでこを合わせられ、腰を引き寄せられた。拓馬の匂いがする。


「試験落ちたっても俺が面倒見たるやんか。麻衣子一人養う甲斐性くらいあんで。」


急に言われて驚いた。養うだなんて、そんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。

今だって家事を多めにやるという約束で家賃は拓馬持ち、光熱費食費雑費は折半というように私の負担が少ないのに。


「そんなに何でも寄りかかれないよ。」

「せやけどずっと先生なる言うて努力してきたんやろ。麻衣子がどんだけ頑張ってきたかよう知っとるから言ってんねん。」


そう言ってもらえるのはとても嬉しい。しかし、年下だからってあまりにも甘えすぎるのは私の性に合わない。
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