自由と首輪
好きなアーティストが隣に座っていることへの喜びより、さっき一瞬目があってなお私の隣に座るなんて、向こうは私がファンだと認識できていないんだろうと少しだけ落ち込んでしまう。

 まあでも、それなら大丈夫だよね、と私は氷がとけて薄くなったアイスコーヒーを一口飲んで再び手紙を書きすすめた。

隣はアイスココアを頼んだようだ。リュウさんああ見えて甘党なのかな、なんだかかわいいな。なんて思っていると思わずそのまま手紙に書いてしまいそうになる。このままじゃ手紙もろくに書けないなと気付いた私は片づけてカフェを出ようと、立ち上がった。

その時、私はソファ席でつながっている隣に座るリュウさんの荷物を倒して地面に落としてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい……!」

 慌てて拾おうとする私を

「さわんな」

 彼はそう言って睨みつけた。

「で、でも」

「お前最近ライブ来てるファンだろ、どさくさに紛れて荷物の中身でも見るつもり?」
 もしかして、あわよくば盗もうなんて考えてたりする? 彼はそう言って私に侮蔑の混じった目線を向ける。

 私は顔が熱くなるのを感じた。どうしよう、勘違いされてる。しかもリュウさんすごく怖い。でもかっこいい。いや、どうしよう。嫌われるのはごめんだ。
でもそもそも荷物落としたことは悪いと思うけど、そんな言い方しなくても。どうしよう。逃げたい……。
 
そんなことをぐるぐる考え出てきた言葉が、
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