呉服屋の若旦那に恋しました


――志貴は、私が綺麗な格好をすると、嬉しいのかな?

さっきもそうだった。まるで手にかけて育てた植物の花が咲いた時みたいに、志貴は嬉しそうに笑う。

普段は鬼みたいな顔をしてるのに、変なの。

何だか気恥ずかしいけれど、私は昔から志貴が嬉しそうにすると、凄く凄く自分も嬉しくなったから。


「志貴、ありがとう」


私は素直にお礼を言って、笑った。

すると志貴は、そんな私を見て一瞬固まった。

え、なんか変なこと言ったかな私……。

私は何だか一気に気恥ずかしくなって、咄嗟に話題を変えた。


「あ、そ、そういえば朝ごはん、楽しみだな確か料理上手な家政婦さんがいるんだよね!?」

「はあ? 家政婦? そんなの一度も雇ったことないわ」

「……え? でも志貴昔言ってたよね? 家政婦さんがご飯作ってくれてるって…、それよく私にも食べさせてくれたよね?」

「………いや、まさかそれ信じてたのか」

「は!?」

「あれ作ってたの、全部俺」

「………えええ!?」

「料理は好きだからな。今やクックパッドの殿堂レシピ常連だし」

「主婦かよ!!」


なんなんだこの男は!

本当に昔から得体が知れない……。

完璧主義だし綺麗好きだしていうかもはや潔癖症だし料理好きだし……。

この人、私なんかと結婚しなくても1人で十分生きていけるんじゃないか……?

そんな疑問が宿った瞳でじっと彼を見つめた。


大体なんでそんなしょうもない嘘をついたんだ。

あの時の志貴は、まだ中学生とかだったと思う。

そんな彼が、私のために料理を勉強して、ご飯を作ってくれていたのかと思うと、なんだか胸が少し熱くなった。

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