呉服屋の若旦那に恋しました


そう言うと、彼は一瞬表情を固まらせた。

そう言えば彼にちゃんと好きと言葉で伝えたのは、雪花が生まれる前…結婚式の後に言ったとき以来だ。

志貴は、明らかに動揺していて、なんだよ急に、と言って目を逸らした。

そんな彼の手を、ぎゅっと握って、私はふふっと笑みをこぼした。


「幸せだなー」


私が思わずそう呟くと、志貴は相変わらずそっぽを向いたまま、ぎゅっと手を握る力を強めた。

彼が一瞬、目元を指で拭う仕草をしたので、私は思わず吹きだした。


「えっ、今ちょっともしかして泣いてるでしょ」

「泣いてない」

「嘘つきっ、じゃあこっち見てよ」

「泣いてない」

「パパ―、なんで泣いてるのー?」

「雪花ちょっと静かにしなさい」

「あはははは」



―――彼は、今日も私に嘘をつく。


私たちを笑わせるために、しょうもない嘘をつく。

そんな彼を、私は本当に心から愛しいと思う。

私とあなたを繋ぐ糸は、きっと永遠に切れないと、そう確信している。

私は、雪花を呼んで、志貴の涙をハンカチで拭いてあげてと頼んだ。

そんな2人の愛しい光景を見て、私も今までのことを久々に少し思いだした。


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